江戸東京野菜の復活やタネの採種は今年も各地で行われたが、伝統の大蔵ダイコンの故郷、世田谷でもその種子保存に向けた取り組みが行われている。
このダイコン、昭和40年代までは世田谷の至るところで栽培されていたが、昭和50年代になって、病気に強く栽培しやすい青首ダイコンの普及に伴い、白首系の大蔵ダイコンは栽培されなくなり、すっかり幻のダイコンになってしまっていた。
しかし、昔の大蔵ダイコンが食べたいとする消費者の声に後押しされて、平成9年度から世田谷の農家では、世田谷区や都農業改良普及センターの指導、JAの協力もあり、栽培しやすく、そろいの良い大蔵ダイコンの交配種(F1種)の栽培をはじめていた。
世田谷区瀬田で大蔵ダイコンを代々栽培してきた大塚信美さんは、伝統野菜が注目を集める中で、世田谷に代々伝わってきた大蔵ダイコンのタネ(固定種)を絶やしてはいけないと、昨年から栽培を始め、品質も良かったことから採種を行った。
大蔵ダイコンは世田谷で生まれた伝統野菜で、色は純白、根の上部から先まで同じ太さの円筒形で、肉付きがよいのが特徴、
青首ダイコンと比べ、水分が少なく煮崩れしにくいので、おでんや煮物に適していることから、幻の大根として人気が高い。

大塚さんについては、江戸東京野菜の図鑑篇(農文協)でも紹介しているが、写真家の矢郷桃さんが撮ってくれた写真は自信に満ちている。
今年は自ら採種したタネを世田谷各地の生産者で、理解を示してくれた仲間にタネを配布して栽培を依頼していた。
大塚さんのことは、世田谷の区民講座で皆さんに紹介したが、都立園芸高校にも固定種のタネを配布したりしている。

このほど、東京都中央農業改良普及センター西部分室などが呼びかけて大塚信美さんの圃場の他、千歳地区、砧地区の圃場で交配種と、固定種の比較調査を実施した。
結果としては、揃いの点では、交配種が良かったが、固定種は長さや太さで大き目の物が多く、参加者の意見としては決してF1種には負けていないとの結論になった。
栽培した農家は、「思ったより良い出来だ」「直売所でよく売れた」などの意見が出された。
比較の後、参加者によって昔からの姿・形の4本を採種用に選抜した。
JA東京中央砧地区で7軒、同千歳地区で9軒、JA世田谷目黒地区で3軒の農家が生産、JAの直売所のほか庭先販売などを実施していた。