2011年02月07日

第9回 「野菜の学校」青森の伝統野菜・地方野菜


青森と云うとリンゴが青森の農業に対する印象だったが、最近はテレビコマーシャルでニンニクなども有名だ。
ながいもとか牛蒡も日本一の生産量とは知らなかった。

この時期に出荷できる野菜が色々あると云うのも、北国・青森の農業だと云うことを教えていただいた。

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今回の講師は、青森県農林水産部農産園芸課で「冬の農業推進グループ」のマネージャーをされている、舘田朋彦(たてだともひこ)氏。

青森県の野菜及び花き担当農業改良普及員として、「ながいも」「にんにく」をはじめ地域特産野菜などの指導にあたる。

2005年より『あおもり「冬の農業」推進チーム』に所属。「寒締めほうれんそう」や「雪の下にんじん」など冬野菜の生産のほか、加エや冬の農業体験などの取組、振興にあたる。2008年からグリーン・ツーリズムの振興業務に従事、2010年4月から現職。




「青森のうまい野菜たち」


雪にんじん


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世界自然遺産「白神山地」を望む広大な大地に雪の中から掘り出す”超熟成にんじん’’があります。普通なら秋に収穫するにんじんを、土の中で冬まで熟成させる「雪にんじん」です。

 にんじんは、普通種まき後100〜110日で収穫しますが、青森の「雪にんじん」はさらに2ケ月以上も土の中で熟成させます。日本海から吹きつける風雪と白神山地から流れ出る清らかな水で育まれる「雪中にんじん」は、人の手だけでは生み出せない雪国ならではのプレミアムにんじんです。

 「にんじん」は「はまべに」という品種で、夏に植え、秋に収穫できるまでに育ったものを、そのまま土の中で眠らせ、雪が積もり始める12月から3月までの冬期間、一本一本手作業で収穫されます。

 冬に収穫することにより、「にんじん」自体がもつ、寒さでも凍らないよう身を守る生理機能が働いて糖分が蓄えられ、野菜とは思えないフルーティな甘さをもった「雪にんじん」が生まれます。

収穫直後の「にんじん」は、糖度9度前後、高いものでは12度を超えるものもあります。また、一般的に時間とともに野菜の水分は蒸発しますから、その分糖度はさらに上がっていくこととなります。

 にんじんはいろいろな料理で活躍してくれます。「ゆでる」「煮る」「炒める」「焼く」「生食」いろいろありますが、「ふかうら雪人参」なら最初は是非「生食」をお試し<ださい。



寒締め(寒味)ほうれん草


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青森県の気候を活かしたこだわり野菜(冬野菜を中心に)。
 「寒じめ」とは、冬までに収穫できる状態に育てた菜つ葉類(ほうれんそう、小松菜など)を収穫前の一定期間ハウスのサイドを開放し、積極的に外の寒さにさらすころでおいしく仕上げる、寒い地域限定の栽培方法です。

 最近の研究から、地温が8℃以下になることで植物の給水能力が低下して、糖度が高まることが分かってきました。

「寒じめ」することによって、葉は凍りつかないように水分を少なくし、糖分をため込むことから甘みが増し、うまみ成分であるアミノ酸含有量やビタミンCも上昇します。これらの効果は、「寒じめ」する日数が長くなるほど高まります。

 ほうれん草の冬採りは、夏採りに比べビタミンCが3倍多くなるほど栄養価が増します(五訂日本食品成分表)。また、えぐ味の原因となるシュウ酸の含有量は、地温低下により代謝が少なくなることから減少します。

「ちぢみほうれんそう」ともよばれる品種「朝霧」などは寒締めの前後から若干平たい形、立ち性の品種は立ち性のまま糖度が高まっていきます。従って、「寒じめほうれん草」とは形によるものではなく、糖度などの内部の品質によるものです。

 青森県では、「冬の農業」の野菜として進めている基幹品目の一つです。県内の主な産地は、今別町、五戸町、十和田市、新郷村、弘前市などで、夏場はトマト、なす、輪菊、葉菜類などの生産者で、それぞれこだわり、どの地域も、安定した高品質のものを出荷するため、栽培講習会、現地検討会、出荷目揃いなどを行っています。
 
 鉄分をより効率よく吸収するためには、少量の動物性タンパク質が必要です。炒めたベーコンと合わせる「ほうれん草サラダ」などはまさに「理」にかなった食べ方と言えます。

 また、ほうれん草に含まれるビタミンCは、水に溶けやすく熱によっても壊れやすいため、短時間でゆでたり炒めたりすることが大切です。



寒締め小松菜


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 小松菜は、青森県が「冬の農業」で進めている「寒締め菜」の一つ。JA十和田おいらせ(旧JA十和田市)では、水田転作率の増加に伴う農家所得の減少対策として、既存の施設を活用した様々な「冬の農業」の取組みを展開。

・寒締め小松菜はその一つの品目として、平成7年に試験的に作付けされ、平成10年から本格的な取組みがスタート。

 冬期間にハウスのサイドを開放して寒さにあて、糖度6以上になったものを「寒締め菜」として出荷。糖度が6に達していない場合は、レギュラー品で出荷する品質のこだわりも注目されるところ。

ハウスの温度が高くなると糖度6の維持が困難になるため、生産は12月から2月末までに限定し、冬期限定で県内の大手スーパーに「こだわり野菜」として出荷されています。

小松菜もほうれんそうと同様に「寒締め栽培」することで、自身が凍らないよう体内の水分を糖化させます。糖分やビタミンなどの栄養価が高まる一方で、えぐ味の原因となるシュウ酸含有量が低下するため、クセのない甘みある野菜になります。



たらの芽


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 たらの芽は、山菜の中の王様とも言われ、寒い北国ほど栽培に適しているとされている。

たらの木から枝を採取し、節ごとに短く切り揃えて穂木にし、12月から3月頃まで、ハウスの中で若芽を出させて早出しする方法は「ふかし栽培」と言われています。

 たらの芽のふかし栽培は、他の作物のようにハウス全体を暖めることはせず、ハウスの中にトンネルをかけ、トンネルの中だけを電熱線などで加温するやり方が主流で、寒い北国でも比較的少ない光熱費で済むようです。

 青森県内では、むつ市川内町が特産野菜として振興しているほか、今別町、三戸町などの生産者グループが冬期間の貴重な収入源として取り組んでいるなど、「冬の農業」の品目として進めている。

 また、JAつがる弘前では、高齢化が進んで廃園になったりんご園を活用してたらの木を養成し、既存の啓翁桜のふかし施設を有効利用して、たらの芽の産地化を進めています。

 太くてみずみずしいものが良品で、寒い地方のものが美味しいとされています。
 定番の天ぷらだけでなく、さっと塩ゆでにして、おひたしや和え物で味わうのもおすすめです。




うど(山菜)
 

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うどは、木ではなく草。10世紀頃(日本では、平安時代中期)にはすでに栽培されていたという日本原産の野菜です。しかし、草丈が3mほどにもなるこの草の食べられる部分は、春に出る芽の部分だけ。現在、栽培され一般に出回っているのは、「軟白うど」と「山うど」。

東北地方では、先に緑の葉が付いている「山うど」が主流。これは黒いマルチを被せ、土を加温してハウス内で作っています。青森県では、「冬の農業」の野菜として進めている品目の一つです。

 畑地で株を大きくしたうどは、10月下旬、株を4分割し、ハウス内に電熱線を敷いた40〜50 cm程に掘った土へ密植して伏せこみ育成します。

 植えてから60日〜80日(1月〜4月)で収穫されます。

ハウス栽培ですが、香りが高く、ほんのり苦味があり、天然物に近い味と好評です。
 先端の葉は天ぶらにして、白い部分は一夜漬けや肉と一緒に妙めても良し。酢の物にしてもおいしい。



大鰐温泉もやし
 

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津軽藩御用達のこの「大鰐温泉もやし」は、 主に冬期間だけ栽培されている津軽の伝統野菜。
 6名しかいない栽培者が今なお秘伝の方法で栽培します。

 明らかになっていることといえば、温泉熱を利用した昔ながらの土耕栽培であること(もちろん無化学肥料、無農薬)。

タネは門外不出の在来種(豆もやしは「小八豆」、そばもやしは「階上早生」)であること。水道水は使用せず温泉だけで育てていること。など基本的な部分のみ。 詳しい方法やコツは昔も今も一切口外されることはありません。

 おいしさの秘密は何といってもその歯触り。じっくり育てられたこのもやしは、自らが持つ生命力と秘伝の「温泉〆」により、水耕栽培にはないシヤキシヤキとした歯ごたえがあります。また、ほのかな土の香りは何とも言えない優しい旨味となってついつい箸が進んでしまいます。
  
 シヤキシヤキ感が強い豆もやしはみそ汁や豚汁に入れたり油炒めにしたり、細いそば
もやしはサラダやおひたしにしていただきます。


一町田( いっちょうだ )せり
 

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邪気を払い健康と五穀豊穣を願う七草粥。冬場に葉物などとれない津軽藩では、この地方ならではの七草が用いられていたと「津軽藩日記」に記されています。

 『清水っこ(しみずっこ)』と呼ばれる清らかな湧き水が豊富な岩木町の一町田地区は、昔からせり産地として有名です。この『清水っこ』は外気温にかかわらず一定の水温を保つため、この地域の田んぼは真冬でも凍ることがなく、藩政時代の昔からせり栽培が行われていたと言われています。

 津軽藩主に献上された七草は主に大鰐産だったようですが、藩士の家庭で手に入れられる七草は必ずしも城内と同じではなく、ましてや庶民は1種か2種を入れるのが精一杯でした。

おそらく、−町田のせりは、藩士や商家にとっては比較的手に入れやすい七草のひとつであり、庶民にとっては冬場の貴重な菜っ葉だったとことでしょう。

 北国のせりは風味が良く、青臭さがほとんどありません。それは、北国独特の気候と水温で育ったせりならではの魅力です。

 津軽では、せりの収穫時期にあたる11月下旬以前から気温が下がりますので、セリの耐寒性が強まりそれが風味の良さを生み出しています。津軽のせりは、独特の強い香りとシヤキシヤキとした食感が身上でどのような料理にも合うやさしい味わいの風味豊かなものとして親しまれており、鍋物のほかおひたしやみそ汁、漬け物などで食べられています。

 写真をクリックすると「セリご飯」。根に近い茎は、うま味の宝庫なので、天ぷらやきんぴらの炒め物がおすすめ。


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山謙さん(山本謙治氏)の指導による食べ比べは
「雪にんじん」を茨城の「はまべに」、千葉の「向陽2号」。

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阿房宮(食用菊)
 

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日本人は昔から桜や菊の花を食用とする習慣があり、特にキクの食用は江戸時代にはかなり大衆化していた。

 現在、食用として栽培されている菊は約60種。
青森県の南部地方では、南部藩主が京都の九条家からもらい受けたとか、八戸の豪商が大阪から取り寄せたという説が残る「阿房宮」が大半。

 この「阿房宮」は、苦みがなく、芳香と甘味が抜群で、歯ごたえもよい食用ギクの王様。
 花には苦い芯がないので、花をまるごと食べることもできます。
 そしてすごいと思うのは、二百年(以上?)にわたってそのおいしさが保たれ、そして守られてきたこと。

 「阿房宮」は、初霜が降りる直前の10月下旬〜11月にかけて収穫されます。
 鮮やかな黄色が美しいこの花は、霜に当たると花が赤茶色に変色してしまいます。

かぶ千枚漬け( 阿房宮をクリックする )


 赤かぶの千枚漬けは、だし昆布と甘酸っぱい味が絶妙においしい漬け物で正月から4月頃まで食べます。赤かぶの千枚漬けがなくなると、干したかぶのこぬか漬けやかぶときくいもの漬物などを食べたりもしていました。

赤かぶの千枚漬けは、冬期間の野菜不足を補う料理として、また香の物として津軽特有の漬物とし、t各家で代々の味を引き継いでいます。

昔は、赤かぶと材料すべてを全部一度に漬けて、立春の頃に食べました。日常のご飯のおかずや酒の肴として食べられていたものです。


豆漬け


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 「毛まめ」とは青森県内で古くから栽培されてきた在来種のえだまめです。
 サヤに茶色の毛が目立つことからそう呼ばれています。

 大粒で甘みが強く、風味も非常に優れているのですが、黒っぼい見た目が劣ることや、毛をとるのが面倒なこと、9月以降に収穫する晩生種で夏場の需要期に間に合わないことなどから、市場に受け入れてもらえず、いっしか農家が自家用に楽しむだけとなってしまいました。

時代が変われば価値観も変わるもの。今は「見た目は悪くてもおいしいものを食べたい」、「地元のもの、旬のものを食べたい」と、毛まめを求めるお客さんが増えています。

 知っている人は知っていると思いますが、毛まめは、毛が多ければ多いほどコクがあり、収穫が遅ければ遅いほど甘味が増しています。

青森では、塩に漬ける「まめ漬け」もおいしい食べ方のひとつです。作り方はいたって簡単。固ゆでにした毛まめをよく冷まし、適当に塩をふって、重石で浸る程度に差し水をするだけ。唐辛子やみょうがを加えても風味が増しておいしくなります。


葉くるみ漬け(写真をクリックする)
 

これぞ伝承漬物の横綱格。津軽の漬物には、しその葉、キャベツ、白菜、高菜などの葉物で、大根、梅、菊芋などを包んで漬ける独特な特徴があり、一品プラスの深い味わいが楽しめます。他の漬物に比べ塩分も少ないため、お茶うけとして食されている。


「青森のうまい野菜」を一人でも多くの方々に知ってもらいたいと云う、舘田氏の情熱と思いが伝わってきた講演だった。ありがとうございました。
posted by 大竹道茂 at 06:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 野菜と文化のフォーラム
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