2011年10月31日

名古屋で行われた「地方伝統野菜の現状と将来展望」の研究会は時宜を得て満席。


6月中旬、日本農林社の近藤宏社長から電話を戴いた。
何でも、財)日本種苗協会と野菜茶業研究所(独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構) の課題別勉強会において、全国の地方野菜を取り上げるので、江戸東京野菜の取組について話をしてくれと云うものだった。
近藤社長には、現役時代からお世話になっているし、江戸東京野菜のタネの供給でも協力をいただいているのでお引き受けした。



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その後、主催者の野菜茶業研究所 野菜育種・ゲノム研究領域 上席研究員の野口裕司氏からご連絡を戴いて、初めて、平成23年度野菜茶業課題別研究会の「地方伝統野菜の現状と将来展望」だと云うのが分かった。

原稿は、9月9日提出、プレゼンテーション用ファイルは、10月14日までと云われていたが、原稿は締め切り前に提出した。
プレゼンテーション用ファイルは、これまで講演を依頼された場合、前日までの最新情報挿入したファイルを制作しているので、当日早く持参することで了解を戴いた。

10年振りに名古屋に降りたが、高層ビルが林立していた。
早めの新幹線で名古屋入り出来たので、心配をかけた野口氏にファイルを手渡すことが出来た。




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27〜28日の議事日程は会場写真をクリックする。

参加者は予想以上に大勢集まったようで、都道府県89名、野茶研36名、日種協56名、その他、大学・法人・民間など名簿では220名を越えていたから、別に第二会場が設けられ、第一会場の映像が映し出されていたようだ。
会場には、フードジャーナリストの向笠千恵子さんもお見えになっていたので、dancyu 11月号 に書いていただいたことにお礼を申し上げた。


研究会のテーマは時宜を得たものだった。

開会の挨拶は、主催者の野菜茶業研究所・望月龍也所長。
と、日本種苗協会・野原宏専務(野原種苗且ミ長)




全体会議T

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発表は1人30分と短かったが、要点を絞った話を聞くことが出来た。

座長:農研機構 野菜茶業研究所 吉田建実氏(写真左)

「地方伝統野菜の歴史と文化」  元野菜茶業研究所 菅野紹雄氏(写真右)

同氏の報告は、テーマに沿って現状を詳細に分析され、
都道府県毎の地方伝統野菜として、
京都府、大阪府、奈良県、石川県等14県を紹介し、東京の現状としては、私の取組についても当日の資料に書いて戴いた。

特に同氏は、「NPO野菜と文化のフォーラム」の会員として同NPOが果たした役割、同NPOが主催する「野菜の学校」の2010年度、2011年度「日本の伝統野菜・地方野菜」について、詳細に説明し、資料にはクサマヒサコの野菜ノートのアドレスも紹介している。

研究者などにも「野菜の学校」を知っていただくにはいい機会に報告された。




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「近年の地方伝統野菜の見直しとその時代背景」 山形大学准教授 江頭宏昌氏(写真左)
伝統野菜が見直されるより具体的な理由には3つあると筆者は考えている。
一つは懐かしくて新しいという直接的な魅力があることである。つまり年配の人にとっては懐かしく、若い世代にとっては全く新しい見た目や食味の体験ができるということである。

二つ目には、今は個性の時代である。どんな組織や自治体でも個性的な情報を発信できなければ、生き残れない時代である。その中にあって、地域の歴史や文化を担ってきた伝統野菜は、栽培したり、提供したり、食べたりすることで、地域の個性を地域内外の人に分かりやすく伝えることができる手段、シンボルになるということである。ときには地元の人にとっては誇りにもなり、よその人にとっては魅力にもなるものである。

三つ目には、伝統野菜は生産効率が悪くても、お金にならなくても伝えられてきたのは、美味しいからとか、お金に換えられない家宝だからなど、心の豊かさを感じる要素を持っているということである。効率ずくめの現代社会で効率を超えた先にある心地よさを提供するという側面が伝統野菜にあるということである。

これら3つの理由はいずれも伝統野菜が持つ情報的価値がもたらすものである。地方伝統野菜の今後の役割は、地域の個性ともいえる歴史や文化、味などを地域外の人々に、あるいは地域内の次世代に伝えながら地域に活力を呼び戻すことにあるといえるだろう。
と述べられた。

「京野菜の技術的発展と地域貢献」 京都府立大学名誉教授 藤目幸擴氏(写真右)




全体会議U

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座長:農研機構 野菜茶業研究所 松元 哲氏(写真左上)

「秋田県における地方伝統野菜の取り組み」 秋田県農業試験場 椿信一氏(写真左下)

「加賀野菜のこれから」 (有)松下種苗店 松下 良氏(写真中)

「江戸東京野菜について」 江戸東京・伝統野菜研究会 大竹道茂

「沖縄県の伝統野菜」 沖縄県立農業大学校校長 坂本守章氏(写真右上)



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地方伝統野菜品種紹介  中会議室(1102)
司会:日本種苗協会 石松亮氏(写真左上)



全体会議が終わった後、別室に県や企業が出店した展示ブースの紹介があったが、参加者が多いためにごった返すような状況であった。




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相模半白キュウリをクリックすると吉川さんの配布資料。


神奈川県のブースに、神奈川県伝統野菜の「相模半白節成キュウリ」が展示されていた。
栽培は平塚の吉川貴博さんだ。

吉川さんは神奈川でも数少ない伝統野菜を栽培する若手のホープで、相模半白節成のルーツを研究するのであれば、江戸東京野菜の馬込半白胡瓜を学ぶようにと、長老からアドバイスを受け、メールをいただいていたが、生産物を見るのは初めてだった。

研究熱心なだけに、立派な半白だ。

それにしても県がここまで協力してくれるとは、羨ましい限りだ。




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宮城県の鞄n邉採種場から、伝統野菜の数々が出展されていた。写真をクリックする。
特に、「里帰りした三河島菜」の物語が語られる仙台芭蕉菜も出展されていた。
懇親会の席で同社の渡邉潁悦社長が乾杯の発声をされたので、名刺交換をさせていただいて、三河島の地で小学校が栽培を始め、新たな物語が生まれつつあることをお伝えした。





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写真をクリックすると
秋田県ブース、
秋田県農業試験場の椿氏が秋田の伝統野菜を紹介していた。
漬物の「いぶりがっこ」の専用品種「秋田いぶりこまち」は水分が少なく肉質が硬いのが向いていると云う。

東京産のダイコンでも試してみようと思っている
因みに「秋田ダイコン」と並んで肉質の硬い「山形ダイコン」は東京の伝統野菜「高倉ダイコン」だと教えてくれた。




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第2日目(10月28日)
2日目は部屋が、「遺伝資源としての地方伝統野菜」と「地方伝統野菜の利用と普及について」に分かれていたが、「利用と普及」については、これまで取り組んできたことなので、「遺伝資源として」取り組んでいる方々がどんな思いなのか知りたくて、そちらを選んだ。

「遺伝資源としての地方伝統野菜」座長‥農研機構野菜茶業研究所 石田正彦氏(写真右)
写真をクリックすると

「地方伝統野菜保全のための系統の取扱いと、採種システム」アグリヒジネスコンサルタント 菅原眞治氏(写真左)

「地方伝統野菜の遺伝資源としての利用価値など」元岐阜県農総研センター 高田宗男氏(写真右上)

「カラシ菜の博多伝統野菜と新規野菜」中原採種場株式会社 諸岡 譲氏(写真下左)

「ヒロシマナへの根こぶ病抵抗性の導入」広島県立総合技術研究所 前田光裕氏(写真下右)




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懇親の席では、大勢の方から「江戸東京野菜」についての質問を受けた。

横浜植木梶@渡邊宣昭社長(日種協、技術研究部会長)からは私が話した、「都立の農業系高等学校に地域の伝統野菜の種を守ってもらうという案」は参考になったと云われた。

また、写真の愛知県江南市の松永種苗鰹シ永伊都子取締役、神奈川県農業技術センターの保谷明江技師からも東京の取組について質問を受けた。




印象に残った報告

皆さんの報告を聞いて、印象に残ったのは
秋田県農業試験場 椿信一氏の報告で、

伝統野菜「平良かぶ」の根こぶ病抵抗性品種「あきた平良」を育成したが、これまで自給してきた農家には、食感の違いから受け入れられないでいる。という

伝統野菜に手を加えるということは、一般の野菜より、よほど慎重に進める必要があるということを改めて痛感させられた。という。

 同じく地元農家が採種してきた「松館しぼり大根」でF1の「あきたおにしぼり」を育成したが、地元農家は、自家採種せずに、種子を他から購入することに対しては強い抵抗感を示したという。
また、Fl化によって従来の伝統野菜の枠を越え、種苗メーカーFl品種と肩を並べる均一性を手に入れたが、本来備えていた遺伝的多様性が大きく失われた。

育成関係者には、Fl化以前の多様性を持った在来種集団を絶やさずに保存していく義務があることを強調しておきたい。というもの。


また、あるブリーダーの「立場」の話も印象に残った。

「地域興しや食育の会議に出席すると、偉い大学教授と呼ばれる人が来ていて、
地域伝統野菜は地域に根ざして、その環境に適して永い間保全されてきた非常に優秀な品種である、と云う発言をする。そういう人達は殆どが文化系の先生で、それを聞くと長年品種改良をしてきたから頭にカチンと来る。
現在の地域伝統野菜に対する認識の違いで、間違っている。
一番の問題は、『優秀な品種』であると云うことだ。
「優秀な品種」とは一番販売の多い、日本のブリーダーが心血を注いで作った品種が、『優秀な品種』であるべきだ」と・・・

これまで学者から、「伝統野菜は優秀な品種」という言葉は聞いたことがないが、
ブリーダーの立場として、参加した若い研究者たちに向かってと思うが、持ち時間の半分を割いて力説されていた。






posted by 大竹道茂 at 00:15| Comment(2) | TrackBack(0) | 食育・食農・講演会等
この記事へのコメント
こんにちは
ブログ 拝見させて頂きました。
先日の研究会は 私は場違いだったのですが 大竹先生の講演は〈町おこし〉で悩んでいる江南市には良い勉強になりました。
黄金井フェァのブログもです。
私も江南だけに居ないで いろんな土地へ行き いろんな人と出会う事が必要だと痛感いたしました。
ありがとうございました。
Posted by 松永 伊都子 at 2011年10月31日 16:58
こんにちは
相模半白きゅうりを栽培している神奈川県のきゅうり農家の吉川です。

相模半白をご覧頂けてとても嬉しいです。

私は農家にとって優れたF1品種は必要と考えながら、今きゅうりは個性が失われつつあるようにも思いますので、このうような地域の古い品種(固定種)も守り、今のものと比較してもらいながら野菜品種を楽しんで貰えるように、引き続き時流ににとらわれることなく少しでも栽培継続していく所存です。

大竹先生のお話やブログは大変勉強になります。

今後とも宜しくお願いします。
Posted by 吉川貴博 at 2011年11月02日 20:43
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