伝統野菜の昔の話が知りたいが知る人がいなくなってしまった、と云う話は伝統野菜に取り組み始めた地方の方々から聞く話だ。
年々知る人が少なくなっていくので、種の保存も含め、伝統野菜の復活は時間との戦いなのだ。
そんなことで、始めた「伝統野菜は長老に聞け!」は、昨年8月に第1回は、植松敬先生、
第2回は、澤地信康先生にお願いしたが、昔の話は好評で、回を追うごとに参加者も増えている。
第3回の「伝統野菜は長老に聞け!!」は、練馬大根の渡戸章さんにお願いしたが、この事は当ブログで紹介した。
この企画を立てた最初から、渡戸さんは講師として予定していたが、今年の初めに体調を崩され入院をされたというショッキングな話を聞き、心配ししばし平癒を祈っていたが、お元気になられてホッとしたものだ。
昭和8年の大干ばつでバイラス病が一部で発生し、続く15年の干ばつでバイラス病が栽培地全面で発生したことで、200年の歴史をもつ練馬大根の栽培はしだいに下火となり、転換作物としてのキャベツにその王座を譲ることとなった。
「第3回 伝統野菜は長老に聞け! 練馬大根は俺に聞け! 」のパワーポイントは、これまで渡戸さんを取材しての手持ちの写真と、古い資料20枚ほどで作っていった。
納所二郎副会長の進行で始まり、私は渡戸さんの話に合の手を入れる役回りで始めたが、渡戸節が冴えわたった。

昭和33年に、練馬の農業後継者達が結成していた練馬青年農業振興会が出版した「練馬の農業」の数ページを話のきっかけとしてコピーしていった。
練馬大根は、沢庵にして販売したため、11月には8割は抜いて干した。12月に干すと凍るからでその前に抜き終わっていた。
「練馬大根の碑」には、東京練馬漬物組合が建立したと記されているが、建立した昭和15年当時は、漬物組合の組合員は全員練馬大根を生産している農家で、渡戸さんも練馬大根を漬けて販売していたという。
練馬大根碑の建立式典の逸話なども披露された。
上の写真をクリツクする
渡戸さんは練馬大根のルーツとして、又六伝説を紹介した。
写真右上 東京都農林水産振興財団が保存する練馬大根の細密画からは、採種の資料で、
葉が大きいと重さで大根が曲がるので、小さい葉を選ぶのだという。
また、ダイコンの下1/3でカットすることで、切り口の細胞を見て「す」の入らない大根を母本として選んだという。
写真右下 まずならされた畑を裸足で歩いて足跡(*クラヲフム)を付け、それから絵のように足跡にタネと肥料を播いていくのだという。(*クラヲフム 足跡を付けることを「鞍を踏む」と云った。)
写真左下 葉が付いたままの方が渇きが早いが、練馬大根は大量に干すので、葉は切り落として干す。その場合の切る位置だが、葉に近いところは細胞が詰まっているのでそこで切ると渇きが悪いという。
写真左上 沢庵を作るのに樽に漬ける方法だが、樽を少しづつ回しながら漬け込むという。
長老だから知る話が、随所にされた。

伝統野菜は、話だけでは理解できない。食べてみないと・・・・
江戸東京野菜コンシェルジュ育成協議会の主催イベントでは、必ず試食会や食べ比べを実施しているが、これが好評で、今回も役員の上原恭子さんが、八王子の川口エンドウで料理を作ってきてくれた。
【食べくらべと試食】
川口エンドウ・日本キヌサヤ・赤花キヌサヤ(ゆで)、汐入ダイコン(生)
*川口エンドウとメイクインの切り胡麻あえ
細切りでさっと湯通しした新メイクイン・蒸してほぐした鶏ささみ・ゆでて細切りにした川口エンドウを三杯酢と切り胡麻で和えたもの。
*赤花キヌサヤと白滝の塩オカカあえ
短く切って空炒りし下味をつけた白滝とゆでて1cm幅に切った赤花キヌサヤを胡麻油で炒った鰹節と塩で和えたもの。
*汐入ダイコンと油揚げの炒め煮
短冊切りにした汐入ダイコンとさっとゆでた葉をツナとともに炒め煮にしたもの。
汐入ダイコンを栽培している宮寺さんのお宅では、油揚げとともに煮たものとダイコンおろしで食べることが多いと伺い作ってみました。
皆さんの感想
古谷史織さん「キヌサヤと塩おかかが絶妙にマッチして、素材の力と風味の演出が素敵でした。」
高橋芳江さん「川口エンドウとメークインおいしかったです。レシピ教えてください」。
藤岡輝好さん「川口エンドウとメークインの和え物 いいですね。」
山下洋子さん「3品ともぜんぶとても美味しかった、何度もお代わりしちゃいました」。
栗田岬知さん「3種類とも、とても美味しかったです。レシピを教えて頂きたいくらいです。」
大根を洗う時に使う「鮫の皮」が渡戸農園に残っているので、お借りしてきて展示して皆さんに見ていただいた。
「第60回伝統食品に関する講演会」で鮫皮の活用について調べている小山一夫さんから質問を受けたが、今回参加されて、盛んに渡戸さんに取材したり写真を撮っていた。
上の写真をクリックする
鮫の皮で洗った大根は、次に仕上げを天保銭型の桶で*トダワシで洗うと、大根はつるつるになったという。(*トダワシ 藤蔓の皮をはいだ皮をまとめてたわしのように使うと鮫の皮でささくれ立った大根がきれいになっるので仕上げに使ったという。)
鮫の皮に興味を持った方々は、休憩時間に写真を撮ったり、渡戸さんのお話を聞いたり・・・・
尚 参加された皆さんへのお土産てして「練馬大根の種」が配られたが、貴重なものだけに喜んでいただいた。

会場には、東大農場の職員手島英敏さんが、初物だと云って馬込半白キュウリと高井戸キュウリを持ってきてくれた。
渡戸さんは、昔栽培していたということで、栽培したいと云っていた。
高井戸キュウリは、苦いのが個性で、採種するときには、成っているキュウリをかじってから苦味の少ない蔓で、採種するように心がけたという。
上の写真をクリックする
手島さんには、馬込半白キュウリと高井戸キュウリの栽培経過などや特徴について話してもらった。
終了後の懇親会には、大勢の皆さんが参加されて、お互いの情報交換が行われた。
今回も、新たな出会いがあった。
当ブログを毎日チェックしていると云う、調味料アドバイザーの古谷史織さんに激励をいただいた。
古谷さん、今後ともよろしく。
また入門編にご参加いただいた、やさいソムリエの木村純一さん、馬込にお住いの渡辺一基さん、漢方スタイリストの新添智子さんと名刺交換をさせていただいた。